「ミサ・パンジェ・リングァ」


作曲技法:

この作品はジョスカン・デ・プレが確立した 通模倣様式 の 典型例であり、またこの作品は 定旋律 を 持っているという特徴もある。そこで以下、定旋律を持つ通模倣様式が この作品の中でどのように展開されているかをグローリアを例に見ていくことにする。 定旋律のグレゴリオ聖歌を[譜例1]に掲げておく。

まず歌詞をいくつかの節に分割して、それぞれの節に定旋律の中の一部を そのモチーフとして与える。例えば、[譜例2]〜[譜例4]にあ げた旋律はそれぞれ[譜例1]の中の1〜3の旋律を パラフレーズ して 作られたモチーフであり、矢印を付した音がもとの定旋律内に含まれる音である。

こうして出来たモチーフを全声部で模倣して曲を構成するのが定旋律を持つ 通模倣様式である。定旋律を持たない通模倣様式では、各モチーフは 作曲家が自由に作ることで与えられる。このグローリアでは1曲の中で もとの定旋律の中のすべての部分がモチーフとして用いられている。

こうして解説するといかにも技巧的な曲に思えるが、実際に演奏すると 歌詞の内容と音楽の展開が見事に一致していることに驚かされる。 特に "Quoniam tu solus sanctus" 以降の展開は圧倒的であり、 「音を操る」天才ジョスカンの面目躍如の感がある。

推奨音律 中全音律

デュファイ、オケゲムの時代の宗教曲と比べると三和音の協和的な使用が目立つ。 純正律 も ラミスによって再整理され(1482年)、 宗教曲といえども三度を多用する時代になったのだろう。

作曲されたのは1515年であるので、 中全音律はまだ発明されていない(発明は1523年)のではあるが、 ピタゴラス音律 ではあまりに三和音が美しくなく、 また純正律も適用不能なので中全音律を用いるのが無難と考える。

ただ中全音律を用いる際の問題は、随所に現れる5度のみによる終止であろう。 ここでは是非純正の5度を響かせたいところであるので、 5度終止の部分ではピッチをコントロールするのがよいと思う。

教会旋法: フリギア旋法

定旋律に選ばれているのは、グレゴリオ聖歌「舌よ歌え」である。 [譜例1]にその全曲を掲げた。この曲はもともとキリスト聖体節の祝日 (三位一体の祝日の後の木曜日)のための イムヌス である。 定旋律となったこの聖歌も、イムヌスの原則にしたがって、 韻を踏んだ自由詩を歌詞とし、その1シラブルに1音を原則とした シラビックな形で旋律が付けられたものになっている。

(宮内)

推奨される歴史的発音: 北部イタリア ラテン語

晩年の作曲であり、彼が生地ピカルディで作曲を 行っていることはほぼ間違いない。しかし曲の中には ピカルディ発音に 特徴的な語尾伸ばしなどの要素がほとんど見当たらない。それよりも 強勢アクセント的特徴のほうが随所に見られる。よって彼の第二の 故郷と言える北部イタリア ラテンの発音を用いるのが適切であろう。

(新郷)


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