最近のコンサートより


4月17日(水)

バッハ・コレギウム・ジャパン第24回定期演奏会
「J.S.バッハ教会カンタータ全曲シリーズ
〜 ヴァイマール時代のカンタータ」

会場
お茶の水: カザルスホール 19:00〜
演奏者
Cd
鈴木雅明
S
栗栖由美子
A
米良美一
T
桜田亮
B
ペーター・コーイ
曲目
「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」BWV12
「いざ、罪に抗すべし」BWV54
「ああ、婚礼に赴く今、われは見る」BWV162
「天の王よ、よくぞ来ませり」BWV182

すでに何度か聴いて、そのたびに質の高い演奏を聴かせてくれたバッ ハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の定期演奏会ということで、とりた てて何かのめあてがあったというわけでもなく、「BCJだから」という だけの期待で聴きに行った。そんなわけで今回の曲目はすべて聴く がはじめてのものである。

聴きに行ったのは定期演奏会の2日目にあたる4月17日の公演。 客席は何となくばらばらと、しかしまぁ埋まっている、という 感じで、7割程度という感じだろうか。これでも、毎月2回(同プ ログラムを2日上演)のペースでコンサート活動をしてることを考え ると「人気が高い」という印象がある。私のような人間が特にめあ てもないのに聴きに行くくらいなので、人気があって当然といえようか。

演奏の方は、例によって、と、ひとことでいってしまうとつまらな いが、非常に心地よい質のよいものと感じた。合唱やソリストの メッサ・ディ・ヴォーチェ感も「勉強になるなぁ」という感じ。

全ステージを何の予備知識もなく聴いたわけだが、曲として非常に 楽しめて特に印象深かったのが、アルト・ソロのためのカンタータ 「いざ、罪に抗すべし」BWV54だった。曲が始まった瞬間「これはいっ たい何事が始まったのか?」と思うような不思議な音響で、みるみる引 き込まれていった。ソロの米良美一もいつもながらの表現力たっぷ りの歌唱。曲の最後には器楽パートにモテットのどこかで聴いたよ うなフレーズがあらわれたのも楽しかった。またどこかで聴いてみ たい曲である。

(奥野)


4月26日(金)

中世音楽合唱団第47回演奏会

会場
お茶の水: カザルスホール 19:00〜
演奏者
解説、Cd
皆川達夫
賛助出演
S
波多野睦美
Lu
つのだたかし
曲目
グレゴリオ聖歌
復活祭
タリス
エレミアの哀歌1,2
バード
アヴェ・ヴェルム・コルプス、キューピットは少年なのか

私が生まれるずっと前から中世・ルネッサンス期の合唱音楽を専 門に歌い続けている、という非常に息の長い合唱団。この時代の 音楽の第一人者である音楽史学者、皆川達夫が率いる合唱団とあっ て以前から何度も聴きにいこうと思っていながら果たせなかった 合唱団だが、今回、これまた今まで聴く機会を逃していた、日本を代 表するメゾ・ソプラノ、と言われる波多野睦美が、リュート奏者の つのだたかしと共に賛助出演するということで、この機会に一気 に両方聴いてしまおう、と思ってホールにむかった。

開演10分前くらいに会場に入ったのだが、いきなりびっくりであ る。満員、それも「超満員に見えるがうまってる席数はやっぱり 9割程度」というハンパな満員ではない。開演時ですでにほぼ空席 の見当たらなくなった会場に、開演後なおも客は増え続け、最終 的には私の席の位置から見えた空席はたったの3つであった。おそ らく空席はホール全体で10席となかったのではないだろうか。カ ザルスホールの客席は510席程度だから98%程度の入りである。 しまいには「そろそろ入場制限で入れなくなる客がいるのではな いか?」と余計な心配までしてしまった。これがいつものことな のか、それとも賛助出演の2人の人気のせいかのかは、はじめてこ の合唱団の演奏会を聴きに行った私には分からなかったが、いつ ものことだとするとおそろしい人気である。客層も(先入観かも知 れないが)他の「一般の(学生ではない)合唱団の演奏会」とは違っ た感じがした。年齢層は高く、女性が多く、どうも合唱をやって いるようにはみえないひとが多い、というところだろうか。休憩 時のロビーも社交的なムードを感じたのは気のせいか。

演奏会は3部構成で、1、3部は中世音楽合唱団が、2部は賛助出演 の2人が独自のステージをもった。

はじめて聴く中世音楽合唱団の演奏は、何とも言えない不思議な味 わいのあるものであった。うまいかへたかと言われると、特別うま いというわけでもないのだが、曲をうまくとらえていて不自然な感 じがしないのはさすがだった。

期待の第2部ではダウランドをはじめとするイギリスのルネッサ ンス期の作曲家による歌曲が歌われた。ステージのオープニング は有名な"Come again"だったが、その第一声から一気に曲の世界 に引き寄せられた。その表現力はすばらしく「ああ、この歌って、 こんな曲だったんだ、ここまで表現することができるんだ」と思っ てしまうほど。ことばひとつひとつに自在な感情を与えて歌って いく様子は、まるで魔法のようだった。

はっきり言ってこれはもう聴いてもらうしかない。すでに各方面 で絶賛されているところにいまさら言うまでもないとは思うが、 要チェック、おすすめである。

中世音楽合唱団による1、3部は皆川氏による解説をはさみながら 歌いすすめられるものになっていたのだが、演奏が終わるたびに 皆川氏の声で「さて、次は、、、」とマイクで語られると、早朝 のFM番組を聴いているような気分になったのは私だけではない だろう。この「ライブっぽくない」印象が「ラジオでおなじみ」 の皆川氏の声であったからなのかどうかはわからないが、演奏後 の微妙な余韻をずいぶんとドライな味気ないものにしてしまった 感があったのは残念だった。古楽における室内楽の演奏会ではこ のようなレクチャーコンサートは何度か経験があり、あまり違和 感をもってはいなかったのだが、合唱の、それも宗教曲のような 精神的な集中力をもつ曲にはこういう形式はややムードをこわす 危険があるのかもしれない。器楽の室内楽曲にはもともと、サロ ン的な、人が集まったところでにぎやかに楽しくやる、という傾 向の物も多く、そのへんの「聞く方の心のありよう」も影響して くるのかと思われた。

演奏会の最後には最古のカノンといわれる「夏は来たりぬ」が 皆川氏の指揮のもと会場全体で歌われ、和やかなムードでお開き となった。

(奥野)


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