最近のコンサートより


1月19日(金)

タリス・スコラーズ
イタリアの音楽

四谷: 紀尾井ホール 19:00〜

曲目

グレゴリオ聖歌
「マリアは天に昇らされたまいぬ」
ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ
モテト「マリアは天に昇らされたまいぬ」
「ミサ・アスンプタ・エスト・マリア」
「天の女王、喜びませ(4声)」
「うるわしき救い主のみ母(4声)」
「うるわしき救い主のみ母(8声)」
「めでたし女王、あわれみ深きみ母」
フランチェスコ・ソリアーノ
「めでたし女王、あわれみ深きみ母」
フェリーチェ・アネーリオ
「キリストはわれらのために」
パレストリーナ
「マニフィカトおよび 2重合唱のための ヌンク・ディミッティス」

演目がパレストリーナを軸としていたこともあり、会場は、9割弱 の入りで、まあまあの盛況ぶり。

声のコンディションは、来日初日にしては女声はなかなか良かった。 ベースは、まあまあだが、和音が厚めになるあたり本調子ではなかった。 セカンドテノールは一人ちょっと声を崩していたようであった。 ただ全体的には、まあまあのコンディションと言って良いだろう。

今回のピーターフィリップスの演奏の表現は、以前より劇的になり、望ましい 方向になっていると感じた。しかし、実際の演奏は、タリススコラーズ本来の 緻密なアンサンブルからはほど遠いもので、期待を裏切られた感があった。 特に前半はフレーズの不用意な飛び込みなどは、彼ららしくない、 集中力の欠いたもので、特にミサ アスンプタエストマリアの アニュス デイの入りの不揃いぶりには我が耳を疑った。

後半のステージでは、少し声も落ち着いたためか不用意な飛び込み はなくなった。ただ音楽の表情については前半を引きずったままで、 停滞している感じが拭いされないまま 4曲が過ぎた。 この雰囲気を一掃したのは、5曲目のソリアーノであった。音の伸 びも良く色も非常に豊かで、この日初めてタリススコラーズを聴き にきたことを思い出させてくれるものであった。 それ以降は、音楽が急に流れ出し彼らの世界が次々と展開されてい くのが手に取るようにわかり非常に心地好いものとなった。若干ア ネーリオの最後など気になる部分があるにはあったが。

アンコールでは、最後の和声が決まらなかったため、非常に短く切ってしまい、 音楽が終わったときの充実感が全くなく、不満の残るものであった。

総じて今回の演奏会は、彼らとしてはかなり出来が悪かったと言え えよう。24日以降に期待したいものである。ただ、この日はソリアーノが 聴けただけでも筆者にとっては収穫であった。

(新郷)


1月24日(水)

タリス・スコラーズ
イギリスの音楽

お茶の水: カザルス ホール 19:00〜

曲目

ジョン・タヴァナー
「安息日が過ぎて」
トマス・タリス
「おお、救い主なるいけにえよ」
「主よ、御身が手に」
ジョン・シェパード
「主よ、御身が手に I,II」
タリス
「安息日が過ぎて」
ロバート・フェアファックス
「おお、徳にみちたるマリア」
ウィリアム・バード
「われは今、戦いに明け暮れたる毎日ゆえ」
タリス
「断食し、嘆きつつ」
「主よ、わが罪を除きたまえ」
「罪ある者がその道を捨てんことを」
リチャード・デイヴィ
「スターバト・マーテル」

タリススコラーズのこれまたお得意のイギリスルネッサンスもの。 場所もカザルスであったため、いつも通り満員であった。

声のコンディションは、ソプラノの高音でかすれ気味になる部分はあ ったものの(これはよくある)良好であったため、和声も幅広いハーモ ニーになってしまうことがなくかなり安心して聴けた。

前半のステージは、一部入りでコントラテノールの男声が別パートを 歌うなどのハプニングはあったものの、それによって音楽の集中力が 落ちることはほとんどなく、なかなかの好演であったように思う。 ただ、タリスの「安息日が過ぎて」のスーペリウスの持続音がハモり を意識するが故、揺れて自信無げに聴こえてしまったのはとても残念。 こういうところこそ、堂々と歌ってもらいたいものである。 あと、前半最後のフェアファックスは、スーペリウスとコントラとの 掛け合い部分で、コントラのバランスが悪く、せっかくのスーペリウスの豊かな 表情が生かし切れなかった。特にコントラの女性は、声量および豊かな 表現力を持っているだけに非常に残念に思った。また、和声も決まらない 部分が数箇所あり、練習不足であることがわかる演奏となってしまった。

後半のステージは、より声も安定し、最初からすばらしい出来栄え。 特にタリスの「断食し、嘆きつつ」は圧巻。この 1曲だけでも聴きに来た 甲斐があったというもの。ただ、最後のデイヴィは、非常に難曲であり、 よくがんばっているという意味で好演であったと思うが、音楽の完成度は 決して高くなかった。特に複雑な掛け合いでは、合わせることと、自分の 表現を追って行くのが精いっぱいで、音楽の自然な流れが妨げられてしまった。 しかし、がんばっていることが会場にもひしひしと伝わったので、 演奏後の拍手は、ひときわすばらしかった。 この拍手で、観客との垣根が取れたのか、アンコールのタリスは出だしから自信に 満ちたすばらしい色の音であった。一部和声が決まらなかったが、このような 音楽の絶え間ない大きな流れの中に身をゆだねられたのは至上の喜びである。

(新郷)


1月29日(月)

タリス・スコラーズ
フランドルの音楽

お茶の水: カザルス ホール 19:00〜

曲目

ハインリヒ・イザーク
「ミサ・ヴィルゴ・プルデンティッシマ」
「天の女王、喜びませ」
ジョスカン・デ・プレ
「アヴェ・マリア」
クレメンス・ノン・パパ
「父よ、われは天に対し」
イザーク
「いと聡明なる乙女」

今回の来日の中で一番意欲的と思われるプログラムであり、演奏への 期待もあったためか満員御礼。また、ヒリヤードアンサンブルの デビット ジェームスも聴きに現われるというおまけつき。

声のコンディションは、男声のコントラテノールを除き極めて良好。 特に女声はほとんど完璧と言えるコンディションだったのではなかろうか。

本日は、最初の音から今までのタリススコラーズとは全く違う非常に 気合いの入ったすばらしいものであった。(テレビ放送されるのであろうか ?) やはり今回の来日公演の音楽表現はその前ともの異なり、より劇的な 激しいものを志向するようになっている。この方向は良いものと思わ れるが、全体的に落ち着きがない印象を与えるのがほんの少し残念。

前半のイザークのミサの出来栄えはすばらしかった。なぜかマイナー の和音は全般に決まらなかったが、表現が常に前向きで、フレーズ感 も豊か、和声も非常に充実した演奏だった。 この演奏によりイザークのファンが増えたに違いない。欲を言えば、 前向きな音楽であっても、緩やかな表現が求められる部分は、より繊細で 緻密な対比が欲しかった。そうなればより深い感動が得られたに違いない。

後半のステージの第 1曲目は、決して悪い演奏ではなかったが、お互いが曲の リズム感を共有できていないため、音楽に乗りきれない演奏であった。 デ・プレは彼らの表現の扱いにしてはテンポが早すぎる気がしたが、さすがに 誰でも知っている曲なので、音程/音色には一番気を使っている様子が伺えた。 それに対し、ラスト 2曲はオーバーレンジぎりぎりの音量、悪乗りしすぎとも 言えるテンポであったが、演奏家たちの乗りに乗った演奏の前に観客もすっかり 乗せられてしまい、最後まで息をつく暇もなかった。タリススコラーズの演奏で これほどまでにスリリングな雰囲気を味わったことは今までなかったように思う。 アンコールのスタビレは、最初にテンポ感が合わなかったため、 ちぐはぐな演奏となってしまった。

この演奏会は、今までの彼らの演奏会を推薦したことの後悔が一気に 吹き飛ぶ最高の演奏であった。

(新郷)

今回の来日公演の他演目を筆者は聴いていないので、比較はできないが、 今回は特にフランドルものを日本に普及させようと来日してきたのではないか と感じられた。イザークという(日本ではやや不当に) 地味な作曲家の作品をメインにした演奏会ということで、 はたして人が集まるのだろうかと思いきや、カザルスはほぼ満席。 タリススコラーズの東京での有名ぶりを改めて確認させられた。

前半はイザークのミサ曲。少し聴いただけで、これは超難曲と分かる。 しかし、事故も少なくただ感心するばかり。断片的にはデプレと似た音の 使い方をしているが、全体的にはずっとドラマチックなこの曲を、 最後まで飽きずに聴かせてくれた。来日直前にソプラノで 一人メンバー変更があり、そのパートは出だしの揃いにやや不安があったが、 そんなこと大したことではないと思わせるほど、聴く者を魅了していた。

後半はモテット集。こちらはすべて彼らによる既録音 CD があり、 頭の中で比較しながら楽しんだ。1曲めからは少々前半疲れを感じさせられたが、 2曲め、アヴェマリアの後半あたりからは、驚くほどの気合いが伝わってきた。 後半は全体に既録音よりはるかに早い速度設定で、落ちるのではないかと ヒヤヒヤしながら聴かせてもらい、またそれがすごく楽しかった。 筆者は特に 3曲めのクレメンスの曲が良かったと思う。この曲のみ 2人減らして音を「厳選」したのが、抜群の効果を上げていたと思う。

カザルスの鳴りには、(過去の度重なる演奏から)十分に慣れたのであろうか、 ホールの特性を最大限に利用し、自信をもってフランドルものの 伝道を成し遂げた演奏会であったと思う。(最後にやや余談ではあるが、) ここ数年大きなメンバー変更もなく、ほぼ毎年お馴染みの顔ぶれで日本に現れ、 高い実力を維持し続けた演奏を披露する彼らに、ただ感嘆するばかりである、 という一文を、感想の最後に付け加えずにはいられない。

(吉村)


1月30日(火)

タリス・スコラーズ
イタリアの音楽

四谷: 紀尾井ホール 19:00〜

曲目

アンニバレ・スタビレ
「乙女チェチーリアよ、楽器を奏でて」
ジョヴァンニ・アニムッチャ
「ミサ・ヴィクティメ・パスカリ」
グレゴリオ・アレグリ
「ミゼレーレ」
スタビレ
「よく知られたるアポロの」
ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ
「アウ゛ェ・マリア」
「汝はペテロなり - 地に結ばれたる者は誰も」
「立ち上がれ、輝け、イエルサレムよ - 人々は歩き回らん」

前日が信じられないような、気の抜けた演奏会だった。初日から、相対的に 考えるとさほど悪くないのだが、前日から考えると嘘のように気の抜けた 演奏で、観客として馬鹿にされているという感覚を強く持った。

1曲目のスタビレは、今回の来日コンサートで 2回アンコールに用いられたが、 それよりは、やはり練習された分、聴ける演奏になっていた。 アニムッチャのこの曲は、私自身知らなかったのだが、曲自体が良くなく、 推薦したことに後悔の念が残った。

本日の演奏はアレグロミュージックの推薦により、二階で聴いたのだが、 アレグリの 2コラがすぐそばで聴けたのは、個人的には非常に勉強になった。 ただ、2コラのソプラノは、放っておくとどんどんシャープするので、 それを押えるのが結構大変だったという印象が強く残る演奏だった。 演奏自体としては、決して褒められるできではなかったが、 観客の反応は良かったように思われ、これまたとても残念であった。

後半の彼らお得意のパレストリーナも、安定感はあるが、あまり感動できる 演奏とはならなかった。今回の来日演奏の中で、特に悪いという演奏では なかったと思うが、いくらコンサート数が多いとはいえ、この日しか 彼らの演奏を聴かない観客も数多くいるのであるから、 もっと一つ一つの演奏会を大切にしてもらいたいものだ。

(新郷)


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