最近のCDより

バッハ:オルガン作品全集2

WM-テルデック WPCS-4713〜4
5,300円
曲目
6つのシュプラー・コラール集
18のライプツィヒ・コラール集

演奏者
Cd,Or 	トン・コープマン
Cho 	アムステルダム・バロック合唱団

トン・コープマンのバッハ録音プロジェクトの2本柱の 1つであるオルガン作品全集の第2弾。 ドイツ・プロテスタントの賛美歌であるコラールのオルガン編曲を、 その原曲コラールをバッハが混声合唱に編曲した作品と並行して 録音するという試みを行ったところが注目される。

オルガンコラールの原曲の旋律と意味を知ることが出来るという だけでなく、同じ旋律に対してバッハの対位法的編曲と 和声的編曲を併せて聴くことが出来るという意味でも興味深い。 一流のオルガニストでもあり、かつ アムステルダム・バロック合唱団という手兵合唱団をも 持っているコープマンならではの企画と言えるだろう。

コープマンによるオルガン演奏の方は、相変わらず彼らしい 運動性と躍動感に満ちた演奏が展開されている。 多彩なアイディアを盛り込んだ即興的な装飾など、やや饒舌と 感じる部分もあるが、有名な「目覚めよと呼ぶ声あり」の演奏でも この曲の従来のイメージを払拭するような楽しい演奏を聴くことが出来る。

一方、合唱団によるコラール演奏も、 さすがにプロの声楽家の集まりによる団だけあって、 終始ハイレヴェルな演奏を聴かせてくれる。 終始和音のピッチ感に不安定さを感じることが多いが、 これは終始の部分だけ純正を意識しているからであろうか。

しかしそういう技術的な問題よりも、 最近多くできてきたプロ声楽家の合唱団の大きな問題は その宗教的な精神性の薄さと言えるだろう。 特にコープマンの演奏にはそれが顕著である。

コラールは信仰の喜びを歌ったものから 死を歌うものまで内容は様々である。またドイツプロテスタントの 特徴として「死に憧れる」という逆説的な喜びを歌うものもある。 コラールを歌うということはそれらの多様な世界を歌うことであるはずなのに、 この録音では終始フワフワほのぼのとした演奏が聞こえてくる。 この精神的な密度の薄さがコープマンのバッハ声楽曲演奏の 大きな問題と言えるだろう。

とは言え、技術的なレヴェルについては、 オルガン、合唱団ともに高い水準を保っており、 このオルガンコラールに興味のある人の入門としても コープマンのこの曲に対する解釈に興味のある人にとっても 推薦できるディスクと言っていいだろう。 とにかく企画そのものが光る一枚である。

(宮内)


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