修辞学(レトリック)というのは、もともとは弁論において聞き手を 説得するための術に関する教えで、その起源は古代ギリシアにまで さかのぼる。この教えはローマ人に受け継がれ、中世の末にはローマ教会に 取り入れられた。→[音楽における代表的なフィグーラ]その修辞学が音楽に取り入れられるようになるのはルネサンス時代の 頃からである。1400年頃からほとんどすべての作曲家と演奏家は修辞学を 学んでいたが、次第にその技法を音楽の中に活かし始めた。 修辞学においては、聞き手を説得するために効果的なものの例えや言い回しが、 フィグーラ(文の彩)という形でまとめられているが、作曲家たちは これにならって音楽的な修辞フィグーラを用い始めたのである。
音楽におけるフィグーラというのは、音楽の表現する内容を聴き手に伝える ために用いる特別な音の使い方や音型のことを指す。フィグーラを音楽に 用いる傾向は1550〜1850年の間には最も強くなり、この時代の音楽は ほとんどすべて修辞学の影響を受けていると言っても過言ではない。
その後、音楽に修辞学の要素を取り入れる傾向はなくなってきたために、 当時の聴衆には当然ニュアンスが伝わると思って書かれたフィグーラにすら、 現代の我々は気が付かないこともある。しかしそのフィグーラを感じることが できるようになると、曲の解釈が容易になることもまたしばしばあることである。
そこでここでは、音楽の中で用いられる代表的なフィグーラを一覧にまとめ、 各曲でもフィグーラが用いられている部分に関しては解説を付すことにした。 また数による象徴(3が神、4が地または人を意味するなど)も 修辞学の一部として捉えられているので、これも同項目内で扱っている。
(宮内)